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ウラとオモテ~光と闇~

ウラとオモテ~光と闇~ Act.03

 ←巨大娘(シャーペン) →一目惚れ (巨人♀、人間♂)

「「セツキさんおはようございます!」」

「……ッ!!?」

「おどろいた!」
「おどろいた!」

全部が巨大な世界にやってきてから一日が過ぎ、雪姫はガバッと唐突に響いた巨大な声に飛び起きた。
上を見上げれば、キャッキャと喜ぶ世話になることになった家の主の幼い双子の妹の顔。
無垢な笑顔は愛らしいと思うが。

雪姫の耳は朝から耳鳴りを早速起こしていた。

今現在雪姫は、彼女達が遊びで使っているドールハウスのベッドの上。
昨日聞いたが、グランは細工師という資格を持っていてオリジナルのアクセサリーを売る店をしているらしい。
食い扶持には困らない、と豪語していたのをそれらを見て思い出す。
その言葉通り、双子のオモチャはそれなりに質のいいもので、今いるベッドも大きさは大きすぎるものの寝心地は凄く良かった。
実質爆睡していた。
それに頭を押さえる雪姫を双子はきょとんと見下ろしてからお互いの口を両手で塞ぐ。

「「ほふぇんなはい」」

「……大丈夫。目は覚めたから」
「「む?はいひょうふ?」」

息ぴったりな双子。
こっくりと雪姫が見上げて頷くと、二人は安心したように手を離してにっこりと花が開いたように愛らしい笑顔を向ける。

「じゃぁ、昨日は私が抱っこしたから、今日はユーリ!」
「わーい!セツキさん抱っこしていい?いい?
 お兄ちゃんのいるキッチンに行こう!」
「その前にお顔」
「あ、そっか!……でも、セツキさん洗える?」
「…………」

開け放たれたドールハウスの壁。むき出しになった寝室の床に両手の指先を引っ掛ける双子の口論に雪姫はため息を吐いた。
それから暫くして双子は勢いよく雪姫を見つめ、

「「…………セツキさんどうしよう!?」」

「……とりあえずグランのところにつれてってくれる?」
「「分かった!」」

結局雪姫に意見を求める双子。
雪姫は軽くその光景に毒気が抜かれる気を感じつつも、ベッドから出てユーリのほうへと数歩歩んで行く。
双子は明るく返事をして、ユーリがそろそろと雪姫を握って持ち上げる。
それから人形のように持たれる雪姫を嬉しそうに見てから移動を開始したのだった……








「「おにいちゃんおはよう!」」
「おー、おはよう……ユーリ。アーリもセツキをそういう風に持つのはやめてやれ。ペットじゃないから。人形でもないから」
「「じゃぁどう人間って抱っこするの?」」
「だからペットじゃないぞ……」
黒いシンプルなエプロンをつけるグランが来て二人と同じ目線までしゃがみこむ。
双子が丘のような高さなら、グランはまさに山のような、最悪それ以上の高さがある巨人でセツキは朝から気が狂いそうになった。

「おはよう。寝れたか?」
「……えぇ。寝心地良かったおかげでぐっすりと」
「それで、起こされたか?」
「よくお分かりね。それで?私は貴方達にどう持ち上げられたらいいのかしら?」

「嫌味を言うなよ……ほら、ユーリ。セツキをここにゆっくり下ろしてくれ」

「ん」

ユーリの手の下に添えられたグランの手のひらに足から下ろされ、手を離されるとペッタリとその上に尻餅をつく。
グランはユーリとアーリをそれぞれ撫でてから立ち上がった。
一気に雪姫の視界も高くなり、軽くくらくらする頭を押さえる。

「握らないで手のひらに乗せるんだ。お客さんだ。握り締めたりしたら失礼だぞ?」

「「はい!」」
「よし、顔洗って来い。行ってないだろ?二人揃ってまだ寝ぼけ顔だ」
「うん!いこ、ユーリ!」
「いく!」
パタパタと走っていく双子を見送り、グランはセツキを見下ろして苦笑した。

「なんだかんだ言って干渉され続けてるな?」
「嫌味返し?」
「かもな。さて、お前も顔は洗いたいだろ?用意してやるからちょっと待て」

手からすでに包丁などが片付けられた調理台の上に雪姫は下ろされ、グランは深めの皿の中に水をいれてはそれを雪姫の傍に下ろして。
雪姫はそれにグランを見上げてから袖をまくって顔を洗い出し、それを見下ろしていたグランは予備のミニタオルを引っ張り出して傍に置く。
顔を洗い終えた雪姫が腕で滴る水滴を拭うのを見て、背中をチョン、と突いてから指先でタオルを示すと、雪姫はしばらく固まった後に手を伸ばして濡れた部位を拭っていた。

「……お礼なんていわないから」
「はいはい。わかってるさ」

「「お兄ちゃん顔洗った!」」

「じゃぁご飯だな。ほら、セツキ」
「……すでに扱いがペットな気がするわ」
「気のせいだ。出来る限り客人として扱ってるからな」

「「お腹空いたー!」」

「はいはい」
苦笑交じりに双子に答えつつ、手のひらを雪姫に差し出し。
雪姫も差し出されたその手に仕方なく乗り移る。
小皿に盛られた小ぶり……彼女から見れば一抱え以上もある大きさだが……のパンや卵など、それらを見れば確かにペットとしては扱われてはいないかもしれない。
しっかりと手拭代わりのティッシュらしきものも傍にあるから、扱いはちゃんとされている。

昨日の一日はほとんどを双子の相手をしてすごしていた。

思い返しながらテーブルに下ろされ、自分から小皿の前にぺたりと座る。
グランたちも椅子に座り、昨日と同じように始まる食事。

昨日、グランは仕事を片付けると部屋にある程度こもったままで、雪姫も連れて行こうとしていたが彼女は双子から一緒に遊んでと頼まれ。
それにグランは反対していたが彼女自身は別に構わないと言ったがために、双子のままごとだったりおしゃべりだったりの相手をさせられていた。
そうして夜になれば、人形のベッドを寝床として二人に提供された。

もぐもぐと自らで千切ったパンに卵を挟んで食べる雪姫は上目に三人を見回す。
楽しそうに食事をする双子と、それを微笑ましく見つめる兄。
ほんとうに絵に描いたような兄妹像で。










あぁ。吐き気がする。










無理やり口の中の物を飲み込んだ。






























食べ終わればまた仲良く三人で片づけをして。
「そうだ、セツキ。体が痛いところはないか?
 昨日こいつらに振り回されてただろ?一応昨日のフェルゼアのところに連れて行きたいんだが」
全てが終わり双子があわただしくキッチンから出て行くと、グランが寄ってテーブルの雪姫に顔を寄せて声を掛ける。

「……とくにないわ。痛みには耐性があるし」

フイッと顔を背けてにべもなく言い返す雪姫にグランは苦笑をこぼし。
「じゃ、念のためまた診察に行くか」

「「どっかいくのー?」」

「お前たちは歯磨き終わったか?」
「「おわったー!」」
雪姫に手を差し出しながら言った言葉に反応したのは、戻ってきた双子で。
そんな双子にグランは笑みを向けながら言葉を投げて、元気よく明るく返事をする二人を見つめる。
顔を雪姫に戻して再び手を差し出し、それを見て雪姫は何度目か息を吐くとその手に足を掛けて乗り。
それを見たグランは手を持ち上げ、動きでぺたりと手の平の上で尻餅をついた雪姫に指を伸ばすが、それはペシリと叩かれた。

「……フン」

一度睨まれてからフイッと顔を背けられれば、グランはもう苦笑するしかなく。
双子を見下ろして、彼はからかうように声を上げた。

「体を痛めてないか、病院に連れて行くところ」
「「ぴっ!!!?」」
「セツキさん体イタイの!?」
「フェル姉のところならユーリたちもいく!!」
「連れて行くから安心しろ。ただし。
 注射じゃないがちょっと痛いことしてもらうから覚悟しとけよ?」

「「~~~~~っ!!?」」

「……ドS……」
「褒め言葉と取っておくさ」

グランの言葉に声を同時に上げて一緒に生きたいと言い出す双子に、グランは少し意地悪な笑顔で二人に怖いことを言い放ち。
それに固まって声も出ない双子を少しばかり哀れに思った雪姫がジト目でグランを横目に見上げれば、彼はそれにクスクスと笑ってこともなげに返してくる。
その後、固まってた二人を何とか我に返してからグランは雪姫を昨日同様胸ポケットに滑り込ませて。
双子の着替えを手伝った後、三人でフェルゼアの診療所まで足を運ぶのだった……


















「よぉ、グラン」

診療所についた彼らを出迎えたのは、雪姫には見覚えのないグランと同い年ほどの男性で。
チャラチャラとした雰囲気を纏わせるお調子者の風体をしたその青年は緩く手をあげて挨拶していた。

「あ。バンガスちゃんだ!」
「バンガスちゃんだ!」

「おー、双子ちゃん元気そうだな……
 でもな。前も言ったよな……?」

双子が声を上げればにやりとニヒルに怖い笑みを口元に浮かべて、ゆらりと一歩こちらへと踏み出し。

「……俺はちゃん付けは嫌いだー!」

「「きゃーっ!」」

高らかに宣言すると双子を追いかけ、双子は楽しそうに悲鳴を上げて逃げ惑う。

「……お前ら」
「おっはよう!グラン。
 セツキも元気そうね」

それを見て嘆息していたグランに後ろから診療所から出たフェルゼアが声をかけ、胸ポケットのセツキにも覗き込んで声を掛ける。
セツキは胸ポケットの縁に手を掛けて顔の半分をそこから出すと、目の前のスペースを駆け回る青年と子供二人を眺めて。
やがて双子が青年の両足にそれぞれくっついて動かなくなると、そのまま歩み寄ってきた青年を上目に見上げる。

青年はセツキを見つけて目を瞬かせたが、面白そうに瞳を細めると先に診療所の中に入っていく。

入った瞬間に、オラ座れ!などという声が響いてまた双子が楽しそうな悲鳴を上げるのも聞こえて。

「人の妹をあんな風に扱うなっての」
「あまり過保護だと嫌われるわよ?」
「ないないそれはない……なぁ?」

やれやれといったようなグランのぼやきにフェルゼアがクスクスと楽しそうに返して。
それに手をひらひらと振ってグランが返しつつもセツキに同意を求めれば、雪姫はそれを見上げてから知るか、と言った風体で体をポケットの中に埋め直す。

「……無視はないだろ、無視は」

グランは苦笑交じりにポケットをつついてから歩き出し、フェルゼアも診療所の中にグランと共に入っていく。

OPENとなっていた看板をCLOSEにして扉を閉めながら。

それからグランは診察台に雪姫を摘み上げて下ろし、フェルゼアは離れた場所で双子に雪姫との会話がスムーズに行えるための術を施していた。

「「ピィッ!!!」」

響いた双子の悲鳴に雪姫は診察台の上で衣服を整えながらそちらに顔をわずかに向けて。

「……いたそ……」

「まぁ電流流されれば誰でもな。ビリッとは来たし」

「なんだ。やっぱりもうされてたのか」
雪姫の呟きに診察台のそばによって腰をかがめ、雪姫の近くに腕を置いてその腕に顎を乗せ平然と言い放つ青年にグランがあっさりと返してしまえば、青年はにやりと笑ってピースサインを彼に返す。
それから雪姫を見つめて。

「そーかそーか。夢の中の人間って君なんだ。セツキちゃんだったかな?フェルゼアから聞いたぜ?
 コイツに無理やりこっちにつれてこられたんだって?」

大変だな、と楽しそうに笑いながらセツキに触れようとしたその指先は、ペシリと指先よりも小さく細い雪姫の手にはたかれる。
それにおぉ、と小さく声を上げると楽しそうに含み笑って身体を起こし、青年は彼女を見下ろした。

「勝気なことで。
 俺はバンガスっていうんだ。グランやフェルゼアとはガキの頃からつるんでて……ま、腐れ縁じみた幼馴染って奴だな!」


「明るく腐れ縁言うなよ」
「そう言うなってシスコン」
「シスコン言うなチャラ男」


明るく自己紹介をする青年……バンガスに冷静なグランのツッコミが入り、その肩に腕を回してさりげない罵声を浴びせるバンガスにさらに罵声を浴びせ返すグラン。


……コレは喧嘩をしているのか?


静か過ぎて逆についていけていない雪姫がいまだ続いている静かな言い争いに勝手にしろと顔を背けたところで。

ゴッチンゴッチン!!
「「ぐっ!?」」

そんな重い音が聞こえると同時に二人のくぐもったうめき声までも響き、思わずそちらに顔を戻して雪姫が見たのは。

分厚い縁が金属でコーティングされている辞書らしき本を片手に持つ明るい笑顔のフェルゼアと、その前で頭を抑えてうずくまっているグランとバンガスの姿。

「セツキが困ってるから言い合いなんてやめましょーねぇぇぇえ?
 男なら潔く殴り合いの喧嘩でもしてなさいっての」

「「フェル姉こわーい」」

「何か言ったかなー?」

「「セツキさんセツキさん私たちの声大きくない?ちゃんとフツーに聞こえる?」」

「……えぇ……大丈夫」

さわやかな笑顔で毒を吐き出すフェルゼアの少し後ろから声を上げた双子にまでフェルゼアが浴びせかけた言葉に。
双子はただならぬモノを感知したのかさっさと兄たちを素通りして雪姫のいる診察台まで小走りにやって来ると何事もなかったかのように雪姫に言葉を必死に投げかけていた。

バラエティ番組やコメディドラマなどでよくあるような情景を目の当たりにした雪姫に何か言えるわけもなく。
普通に双子に返事をするよりほかにないのであった……






Act.03 平凡な一日

(もはや私は人間ではなく小動物ね)
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