1話完結
Wデート?(巨人♂♀、人間♂♀)
電話で聞こえる間延びした声が、彼にとっては恐ろしい事実を告げる。
『あのね、涼くんあのね!!お兄ちゃんが今日は家にいるっていうの!!
だからね、涼くんをこないだ言ったように紹介してあげようと思って!!』
「あの、優菜くん?」
『だからいつものあの屋上に来て!私のお家に今日は連れてってあげる!』
「いや、だからあのな」
『それじゃ、後でね!すぐ着てね!!?』
プツッ。ツー、ツー……
人の話も聞かずに切られてしまったその電話。
携帯電話を握り締め、彼は。
「人の話をちゃんと聞けえぇぇぇええええぇッ!!!!!」
「ちょっと涼うるさいよッ!」
「スンマセン!」
部屋の中で出かける支度をしつつ叫び、部屋の外から聞こえた母親の罵声に思い切り謝罪していたのだった。
あれから数十分後。
涼は待ち合わせ場所ですでに待っていた優菜に有無を言わさず抱き上げられ、彼女の家へと連れて行かれていた。
巨人の町に入るのは初めてじゃないが、誰かの家、というのは初めてで。
「お兄ちゃん!今入って大丈夫ぅ?!」
『何だいきなり……まぁ入るなら入れ』
玄関から入るなり二階へと大好きな涼を手に抱いたまま上がって、一つの部屋をノックしながら声を上げる優菜に答えたのは、気だるげな声で。
「わーい!お邪魔します!」
元気に声を上げて涼を乗せていない手でドアを開くと、シンプルな部屋の中、パイプベッドの上に座り壁に寄りかかるような状態で本を読んでいたらしい眼鏡の巨人男性が一人。
彼が見た顔と一致するが、あの時は眼鏡はなかったために一瞬誰かわからなかった。
「なんだ優菜。最近は外に出ることが多いのに、もう帰ってきたのか?」
「お兄ちゃん忘れちゃったの!?出かける前に会わせたい人がいるから迎えに行って来る、って私言ってたよぉ!」
「ん?……そうだったか?」
「もう!」
プリプリと怒る優菜に、ニヒルな笑みを返す兄。
いや、覚えてる。覚えてて忘れたフリをして妹の反応を楽しんでる。コレは。
涼が汗を流しつつ呆然としていたところで、兄と視線がかち合って。
兄はさらにニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
……あれ?俺マジで死亡フラグ立っちゃった?むしろ確実に終わる?
嫌な汗が背中まで流れて、そんな中で優菜が涼を兄に向かって差し出すように指し示し。
「あのね、この人!同い年の人間の男の子で、涼くんっていうの!
いつも一緒におしゃべりしたりしてるんだよ!」
「……ほぉ」
「は、はじめまして……水無月 涼です……」
「コイツの兄の瑠維だ。よろしくしておいてやる」
「ね?お兄ちゃん優しいでしょ?」
「……ソーデスネ……?」
爛々と意地の悪い瞳がきらめいてジッと見つめてくる様は狙われているようで恐ろしい。
それに気づいていない優菜がいつもの調子で声を上げれば、乾いた声で返すしかない。
そこで優菜が不意にハッとした顔をして。
「あ、お茶菓子あったかなぁ……!ちょっと調べてこなきゃぁ」
「なら優菜。涼くんは俺と待たせておくからちょっと見てきてくれ。
たしか昨日、母さんが買ってきてたモノがまだあったはずだぞ」
「あ、本当!?じゃぁ涼くんといっぱい話して仲良くなっててね!お兄ちゃん!」
「善処しよう」
「えぇ!?いや、俺の意思はンガッ!?」
思いっきり優菜の手の上で抗議していた涼の身体を優菜の手より一回り大きな瑠維の手が握りこんで言葉を途中で終わらせ持ち上げる。
「お兄ちゃん、あまり乱暴に扱わないでねぇ……?」
「人間の扱いは心得てるぞ。安心しろ」
「う、うん……すぐ戻ってくるから、涼くん待っててね!」
上半身を握りこまれた涼の姿にさすがにただならないものを感知したかあせる優菜に笑顔を返す瑠維。
それに困った様子を見せつつも、急いで帰ってこようとあわただしく部屋から出て行く優菜を見送った後、瑠維は手の中の涼を自身のそばに転がすように開放する。
「げほっ!死ぬかと思った……」
「絶妙な力加減だっただろう?」
「お、お兄さん……俺に何の恨みが!?あったばかりですよ!?」
「いや、お前の話を妹から聞かされ続けていて……なぁ」
片手で持っていた本に栞を挟んで涼とは反対にある広大な枕において。
瑠維は涼を見下ろしてそれはもう、満面の笑顔を顔に貼り付けて見下ろした。
「妹に何をさせていたのかな?お前は」
「マッタク身ニ覚エガアリマセン」
いきなりなんだ、とその笑顔の黒い奥にある迫力に思わず片言で反論をする涼に、瑠維は何を言うか、と肩をすくめた。
「妹の胸に体を埋めたりしたことがあるそうじゃないか?」
「あれはアイツが勝手にやったことです!!!」
どんなこと伝えてんだ!と顔を紅くしつつ反論する涼に指先を突きつけて瑠維は顔を少し剣呑なものへと変えて。
「どんな理由であれ女に責任を押し付けるのは最低な行為だぞ?ん?」
「お兄さんドSとかってよく言われませんかぐぇ」
「お前は一言多いとか言われないか?」
突きつけられた指先で胸を突かれ、ベッドの上に転がされた涼のその上に一抱えはある太さの指先が押し付けられる。
クツクツと愉快そうに喉の奥で含み笑うその顔に涼は嘆息しつつ、苦しいが死ぬほどでもない、本当に絶妙な力加減の中でおとなしく瑠維を見上げていた。
しばらくして指先がどかされ。
起き上がった涼を見下ろして瑠維は眼鏡を外す。
「まぁあの妹はすこし甘えん坊だからな。お前のような奴のほうがちょうどいいか。
泣かせたりしてもいいがあまり酷かったら俺がお前をプチッと踏み潰してやるから覚悟しろ」
「別にまだ付き合ってませんから!泣かせるつもりはもちろんありませんけど!!」
はいはい、と意地の悪い笑みを浮かべて眼鏡ケースに眼鏡をしまう様子に信じてない、と涼はうなだれる。
しかし、そんな時に瑠維は本を置いたほうのスペースを見て、グッとそちらに顔を下ろす。
「おい。そろそろ起きろ……そんな風にやったってダメだ。起きろ」
顔をさらに下ろして、瑠維が顔を元に戻したときに見えたものに涼はぎょっとした。
瑠維の口に、人間が一人咥えられていたから。
「え、ちょ!?」
「んぁ……ん」
涼を見下ろしてから瑠維は咥えていた人間を指先で摘んで手の平に転がし、動かないそれにさらに唇を寄せる。
「だから。起きろ小夜」
「瑠維さぁん……ん~……もうちょっと」
「起きろって言ってるだろう……まったく」
チラ、と唖然とする涼を見下ろしてからやりにくそうに視線をずらし、顔を反対に向けて人間を乗せた手をその口元にさらに寄せていく。
動きははっきりと涼にも見えていて。
「ん……」
瑠維のわずかな声が響いて、しばらく動かなかったその手がわずかに離れるのを見た後。
「る、瑠維さん!!苦しかったです!!」
「起きないお前が悪い……いいだろ。どうせもう付き合ってるんだ」
「で、でも、でも……ッ!
は、恥ずかしくて……!!!」
「ほぉ?それは良いことを聞いたな」
「ひぁっ!!」
ドSだ……本当にこのお兄さんはドSだ……!
聞こえる会話になんとなく起こっていることを予想して、やがて身体の向きを元に戻した瑠維は涼のそばに手に乗せていた人間の小夜を下ろし、二人を見下ろす。
「小夜。俺の妹の彼氏、涼だ」
「な!?だからちが!!」
「優菜ちゃんの彼氏さんですか!?
うわぁ、そうなんですか!優菜ちゃんかわいいですもんね」
「人の話を聞いてください……」
「瑠維さん。なんだか涼さんが打ちひしがれちゃいました」
「照れ隠しだ。気にしてやるな」
「そうなんですか!?」
「違うわあぁぁぁぁあ!!!」
「お待たせぇ!涼くんすごいねぇ。人間なのに廊下まで声響いてたよぉ~?
あ!小夜さんやっぱり来てたんですねぇ。良かった~、小さいコップも二つ持ってきて!」
「用意がいいな。さすが優菜」
「えへへ~」
「…………もう、どうとでもなりやがれ」
打ちひしがれた状態でがっくりと気を落とした涼の背中を、まぁまぁと小夜がさする。
その後、始まった簡易なお茶会。
「ほら小夜。食え」
「わぁ、ありがとうです瑠維さん!大きい角砂糖~!涼さん、涼さんすごいですよね!ほら一抱え!」
瑠維が小夜に摘んだ角砂糖を手渡し、それを見て感嘆した小夜は反対に座る涼の方に砂糖を見せるように持ち直してからニコニコと声を上げる。
「小夜さん……服砂糖だらけになってますよ……」
「じゃぁ涼くんにはこっちぃ~!はい、チョコチップクッキー!」
「お、おぉ、サンキュー……ってデカイわ!!」
「人間は便利だな?巨人の一口大の食べ物でさえ一抱えか……」
汗を流しつつ涼が静かに言葉を投げれば、優菜からこちらは一抱えあるクッキーを渡されて、円盤のようなそれを持ちつつ突っ込んでいた。
瑠維のしみじみとした言葉に、シャクシャクと角砂糖を齧りつつ頭を指で撫でられた小夜は照れたような笑みを彼に送って。
それを見つつも涼は別のことに考えが行っていた。
「小夜さん、虫歯なりますよ」
「大丈夫です!歯磨きはちゃんとさせてもらってますから!」
「……あぁ、そーですか……」
小夜の元気良い発言に涼が言葉を失い、クッキーを一口やっと齧ったその後で。
「小夜。もう一ついるか?」
「じゃぁちょっと削ってください!」
「面倒くさい注文をしてくれるな」
「すいません」
純粋な小夜とその要望どおりに自分のスプーンで角をこそぎ取り差し出す瑠維。
受け取った小夜を見て残りの砂糖をカップに放り込んで混ぜつつ砂糖を頬張る姿を見下ろし続ける彼を見て、涼は優菜を見上げた。
「釣り合い良いんだな」
「小夜さんとお兄ちゃんはね、本当に仲がいいんだぁ!初めはお兄ちゃん人間に興味なかったんだよ?」
「そうなのか?」
「うん!小夜さんが変えてくれたんだって一回見ただけでわかっちゃったんだぁ。お似合いだよね~?羨ましいなぁ」
「羨ましい?……何が?」
「私もね?涼くんと……その、あんな風になれたら良いなぁって思ってぇ……」
「……ッ!!?」
涼の顔が赤くなり、二人を見ていた優菜が涼を見下ろして、少し紅い顔で照れたように微笑んで。
さらに顔を真っ赤にせざるを得なくなった涼は前を見つめなおして。
思わぬ光景に目を丸くする。
「砂糖だらけ。甘ったるい……ただでさえ甘い身体をしているのにな」
「ちょ、瑠維さ……!涼さんたち、見てますよ……!!」
いつの間にか小夜を捕まえ、その服や顔に舌を這わせて砂糖を舐め取る瑠維の姿を目に映して。
「お、お兄ちゃん!?何してるのぉ!?」
優菜もそちらをやっと見たらしく、ぎょっとして声を上げる。
瑠維はその声に涼と妹の優菜を見て、ニヒルに笑った。
「あぁ、人間はな?こうされると喜ぶんだぞ。優菜」
「え~?そうなのぉ?」
「涼君にもお前がしてあげたらどうだ?ちょうどクッキーのカスまみれだし」
「わ、わかった!私がんばるねぇ!」
「は!?おま、待て激しく違っ!」
瑠維の言葉に騙されて涼を捕まえると優菜は涼を口元に持っていき、少し恥ずかしそうにしつつも薄く口を開いて。
それを見た涼は。
「だから!人間はそんなことしても喜ばねぇし望んでもいねぇって言ってんだろーがッ!!!」
兄のまねをしようと優菜が舌を伸ばしかけた瞬間。
鼻っ面を押して思いっきり反論する涼の言葉がやっと耳に届いたらしい優菜は固まり。
「え、えぇ?そ、そうなのぉ……?!」
「そーなんです!!」
「優菜ちゃんに嫌われますよ、瑠維さん……ッ!ん、むぅ……る、瑠維さん、顔はちょっと苦しいです……」
「俺は思いっきり好きな人間とのスキンシップ方を伝授しただけだから。問題はない」
問題ありすぎだろ……!!
まだ付き合ってもいないのに、キス以上に濃厚なことをやらされかけた二人は、目の前の年上カップルの様子を見た後で顔を見合わせ、気恥ずかしさに動けなくなってしまうのだった。
そしてさらにその後。
「もう、瑠維さんせめて一言言ってから始めてください。あと、人目につかないところがいいです!」
「どうせ服の替えはおいてあるんだ。洗濯もこっちでするし、いいだろ?」
「「(着替えあったんだぁ……)」」
思う存分砂糖を舐め取られた小夜をつれて瑠維が洗面台にいき、その後戻ってきた二人の会話に、優菜と涼はうわぁ、と頭の中で声を上げる。
しかし、それと同時に二人は顔を見合わせた。
もし。
もしあの時優菜が涼を瑠維が小夜にしていたように舐めていた場合。
濡れ鼠のような状態で涼は自分の家に帰らなくてはいけなかったのではなかろうか。
二人が瑠維を見つめると、瑠維は小夜を手に乗せて愛でながら視線を合わせて、にやりと笑う。
「涼くん。今度はねぇ、あのぉ……お兄ちゃんいないときに、家に来てお話しない~?」
「……あぁ……そーだな……」
自分たちの安全のために。
お茶会だけだったのに、妙に疲れた二人の間でそんな約束が交わされたのである。
『あのね、涼くんあのね!!お兄ちゃんが今日は家にいるっていうの!!
だからね、涼くんをこないだ言ったように紹介してあげようと思って!!』
「あの、優菜くん?」
『だからいつものあの屋上に来て!私のお家に今日は連れてってあげる!』
「いや、だからあのな」
『それじゃ、後でね!すぐ着てね!!?』
プツッ。ツー、ツー……
人の話も聞かずに切られてしまったその電話。
携帯電話を握り締め、彼は。
「人の話をちゃんと聞けえぇぇぇええええぇッ!!!!!」
「ちょっと涼うるさいよッ!」
「スンマセン!」
部屋の中で出かける支度をしつつ叫び、部屋の外から聞こえた母親の罵声に思い切り謝罪していたのだった。
あれから数十分後。
涼は待ち合わせ場所ですでに待っていた優菜に有無を言わさず抱き上げられ、彼女の家へと連れて行かれていた。
巨人の町に入るのは初めてじゃないが、誰かの家、というのは初めてで。
「お兄ちゃん!今入って大丈夫ぅ?!」
『何だいきなり……まぁ入るなら入れ』
玄関から入るなり二階へと大好きな涼を手に抱いたまま上がって、一つの部屋をノックしながら声を上げる優菜に答えたのは、気だるげな声で。
「わーい!お邪魔します!」
元気に声を上げて涼を乗せていない手でドアを開くと、シンプルな部屋の中、パイプベッドの上に座り壁に寄りかかるような状態で本を読んでいたらしい眼鏡の巨人男性が一人。
彼が見た顔と一致するが、あの時は眼鏡はなかったために一瞬誰かわからなかった。
「なんだ優菜。最近は外に出ることが多いのに、もう帰ってきたのか?」
「お兄ちゃん忘れちゃったの!?出かける前に会わせたい人がいるから迎えに行って来る、って私言ってたよぉ!」
「ん?……そうだったか?」
「もう!」
プリプリと怒る優菜に、ニヒルな笑みを返す兄。
いや、覚えてる。覚えてて忘れたフリをして妹の反応を楽しんでる。コレは。
涼が汗を流しつつ呆然としていたところで、兄と視線がかち合って。
兄はさらにニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
……あれ?俺マジで死亡フラグ立っちゃった?むしろ確実に終わる?
嫌な汗が背中まで流れて、そんな中で優菜が涼を兄に向かって差し出すように指し示し。
「あのね、この人!同い年の人間の男の子で、涼くんっていうの!
いつも一緒におしゃべりしたりしてるんだよ!」
「……ほぉ」
「は、はじめまして……水無月 涼です……」
「コイツの兄の瑠維だ。よろしくしておいてやる」
「ね?お兄ちゃん優しいでしょ?」
「……ソーデスネ……?」
爛々と意地の悪い瞳がきらめいてジッと見つめてくる様は狙われているようで恐ろしい。
それに気づいていない優菜がいつもの調子で声を上げれば、乾いた声で返すしかない。
そこで優菜が不意にハッとした顔をして。
「あ、お茶菓子あったかなぁ……!ちょっと調べてこなきゃぁ」
「なら優菜。涼くんは俺と待たせておくからちょっと見てきてくれ。
たしか昨日、母さんが買ってきてたモノがまだあったはずだぞ」
「あ、本当!?じゃぁ涼くんといっぱい話して仲良くなっててね!お兄ちゃん!」
「善処しよう」
「えぇ!?いや、俺の意思はンガッ!?」
思いっきり優菜の手の上で抗議していた涼の身体を優菜の手より一回り大きな瑠維の手が握りこんで言葉を途中で終わらせ持ち上げる。
「お兄ちゃん、あまり乱暴に扱わないでねぇ……?」
「人間の扱いは心得てるぞ。安心しろ」
「う、うん……すぐ戻ってくるから、涼くん待っててね!」
上半身を握りこまれた涼の姿にさすがにただならないものを感知したかあせる優菜に笑顔を返す瑠維。
それに困った様子を見せつつも、急いで帰ってこようとあわただしく部屋から出て行く優菜を見送った後、瑠維は手の中の涼を自身のそばに転がすように開放する。
「げほっ!死ぬかと思った……」
「絶妙な力加減だっただろう?」
「お、お兄さん……俺に何の恨みが!?あったばかりですよ!?」
「いや、お前の話を妹から聞かされ続けていて……なぁ」
片手で持っていた本に栞を挟んで涼とは反対にある広大な枕において。
瑠維は涼を見下ろしてそれはもう、満面の笑顔を顔に貼り付けて見下ろした。
「妹に何をさせていたのかな?お前は」
「マッタク身ニ覚エガアリマセン」
いきなりなんだ、とその笑顔の黒い奥にある迫力に思わず片言で反論をする涼に、瑠維は何を言うか、と肩をすくめた。
「妹の胸に体を埋めたりしたことがあるそうじゃないか?」
「あれはアイツが勝手にやったことです!!!」
どんなこと伝えてんだ!と顔を紅くしつつ反論する涼に指先を突きつけて瑠維は顔を少し剣呑なものへと変えて。
「どんな理由であれ女に責任を押し付けるのは最低な行為だぞ?ん?」
「お兄さんドSとかってよく言われませんかぐぇ」
「お前は一言多いとか言われないか?」
突きつけられた指先で胸を突かれ、ベッドの上に転がされた涼のその上に一抱えはある太さの指先が押し付けられる。
クツクツと愉快そうに喉の奥で含み笑うその顔に涼は嘆息しつつ、苦しいが死ぬほどでもない、本当に絶妙な力加減の中でおとなしく瑠維を見上げていた。
しばらくして指先がどかされ。
起き上がった涼を見下ろして瑠維は眼鏡を外す。
「まぁあの妹はすこし甘えん坊だからな。お前のような奴のほうがちょうどいいか。
泣かせたりしてもいいがあまり酷かったら俺がお前をプチッと踏み潰してやるから覚悟しろ」
「別にまだ付き合ってませんから!泣かせるつもりはもちろんありませんけど!!」
はいはい、と意地の悪い笑みを浮かべて眼鏡ケースに眼鏡をしまう様子に信じてない、と涼はうなだれる。
しかし、そんな時に瑠維は本を置いたほうのスペースを見て、グッとそちらに顔を下ろす。
「おい。そろそろ起きろ……そんな風にやったってダメだ。起きろ」
顔をさらに下ろして、瑠維が顔を元に戻したときに見えたものに涼はぎょっとした。
瑠維の口に、人間が一人咥えられていたから。
「え、ちょ!?」
「んぁ……ん」
涼を見下ろしてから瑠維は咥えていた人間を指先で摘んで手の平に転がし、動かないそれにさらに唇を寄せる。
「だから。起きろ小夜」
「瑠維さぁん……ん~……もうちょっと」
「起きろって言ってるだろう……まったく」
チラ、と唖然とする涼を見下ろしてからやりにくそうに視線をずらし、顔を反対に向けて人間を乗せた手をその口元にさらに寄せていく。
動きははっきりと涼にも見えていて。
「ん……」
瑠維のわずかな声が響いて、しばらく動かなかったその手がわずかに離れるのを見た後。
「る、瑠維さん!!苦しかったです!!」
「起きないお前が悪い……いいだろ。どうせもう付き合ってるんだ」
「で、でも、でも……ッ!
は、恥ずかしくて……!!!」
「ほぉ?それは良いことを聞いたな」
「ひぁっ!!」
ドSだ……本当にこのお兄さんはドSだ……!
聞こえる会話になんとなく起こっていることを予想して、やがて身体の向きを元に戻した瑠維は涼のそばに手に乗せていた人間の小夜を下ろし、二人を見下ろす。
「小夜。俺の妹の彼氏、涼だ」
「な!?だからちが!!」
「優菜ちゃんの彼氏さんですか!?
うわぁ、そうなんですか!優菜ちゃんかわいいですもんね」
「人の話を聞いてください……」
「瑠維さん。なんだか涼さんが打ちひしがれちゃいました」
「照れ隠しだ。気にしてやるな」
「そうなんですか!?」
「違うわあぁぁぁぁあ!!!」
「お待たせぇ!涼くんすごいねぇ。人間なのに廊下まで声響いてたよぉ~?
あ!小夜さんやっぱり来てたんですねぇ。良かった~、小さいコップも二つ持ってきて!」
「用意がいいな。さすが優菜」
「えへへ~」
「…………もう、どうとでもなりやがれ」
打ちひしがれた状態でがっくりと気を落とした涼の背中を、まぁまぁと小夜がさする。
その後、始まった簡易なお茶会。
「ほら小夜。食え」
「わぁ、ありがとうです瑠維さん!大きい角砂糖~!涼さん、涼さんすごいですよね!ほら一抱え!」
瑠維が小夜に摘んだ角砂糖を手渡し、それを見て感嘆した小夜は反対に座る涼の方に砂糖を見せるように持ち直してからニコニコと声を上げる。
「小夜さん……服砂糖だらけになってますよ……」
「じゃぁ涼くんにはこっちぃ~!はい、チョコチップクッキー!」
「お、おぉ、サンキュー……ってデカイわ!!」
「人間は便利だな?巨人の一口大の食べ物でさえ一抱えか……」
汗を流しつつ涼が静かに言葉を投げれば、優菜からこちらは一抱えあるクッキーを渡されて、円盤のようなそれを持ちつつ突っ込んでいた。
瑠維のしみじみとした言葉に、シャクシャクと角砂糖を齧りつつ頭を指で撫でられた小夜は照れたような笑みを彼に送って。
それを見つつも涼は別のことに考えが行っていた。
「小夜さん、虫歯なりますよ」
「大丈夫です!歯磨きはちゃんとさせてもらってますから!」
「……あぁ、そーですか……」
小夜の元気良い発言に涼が言葉を失い、クッキーを一口やっと齧ったその後で。
「小夜。もう一ついるか?」
「じゃぁちょっと削ってください!」
「面倒くさい注文をしてくれるな」
「すいません」
純粋な小夜とその要望どおりに自分のスプーンで角をこそぎ取り差し出す瑠維。
受け取った小夜を見て残りの砂糖をカップに放り込んで混ぜつつ砂糖を頬張る姿を見下ろし続ける彼を見て、涼は優菜を見上げた。
「釣り合い良いんだな」
「小夜さんとお兄ちゃんはね、本当に仲がいいんだぁ!初めはお兄ちゃん人間に興味なかったんだよ?」
「そうなのか?」
「うん!小夜さんが変えてくれたんだって一回見ただけでわかっちゃったんだぁ。お似合いだよね~?羨ましいなぁ」
「羨ましい?……何が?」
「私もね?涼くんと……その、あんな風になれたら良いなぁって思ってぇ……」
「……ッ!!?」
涼の顔が赤くなり、二人を見ていた優菜が涼を見下ろして、少し紅い顔で照れたように微笑んで。
さらに顔を真っ赤にせざるを得なくなった涼は前を見つめなおして。
思わぬ光景に目を丸くする。
「砂糖だらけ。甘ったるい……ただでさえ甘い身体をしているのにな」
「ちょ、瑠維さ……!涼さんたち、見てますよ……!!」
いつの間にか小夜を捕まえ、その服や顔に舌を這わせて砂糖を舐め取る瑠維の姿を目に映して。
「お、お兄ちゃん!?何してるのぉ!?」
優菜もそちらをやっと見たらしく、ぎょっとして声を上げる。
瑠維はその声に涼と妹の優菜を見て、ニヒルに笑った。
「あぁ、人間はな?こうされると喜ぶんだぞ。優菜」
「え~?そうなのぉ?」
「涼君にもお前がしてあげたらどうだ?ちょうどクッキーのカスまみれだし」
「わ、わかった!私がんばるねぇ!」
「は!?おま、待て激しく違っ!」
瑠維の言葉に騙されて涼を捕まえると優菜は涼を口元に持っていき、少し恥ずかしそうにしつつも薄く口を開いて。
それを見た涼は。
「だから!人間はそんなことしても喜ばねぇし望んでもいねぇって言ってんだろーがッ!!!」
兄のまねをしようと優菜が舌を伸ばしかけた瞬間。
鼻っ面を押して思いっきり反論する涼の言葉がやっと耳に届いたらしい優菜は固まり。
「え、えぇ?そ、そうなのぉ……?!」
「そーなんです!!」
「優菜ちゃんに嫌われますよ、瑠維さん……ッ!ん、むぅ……る、瑠維さん、顔はちょっと苦しいです……」
「俺は思いっきり好きな人間とのスキンシップ方を伝授しただけだから。問題はない」
問題ありすぎだろ……!!
まだ付き合ってもいないのに、キス以上に濃厚なことをやらされかけた二人は、目の前の年上カップルの様子を見た後で顔を見合わせ、気恥ずかしさに動けなくなってしまうのだった。
そしてさらにその後。
「もう、瑠維さんせめて一言言ってから始めてください。あと、人目につかないところがいいです!」
「どうせ服の替えはおいてあるんだ。洗濯もこっちでするし、いいだろ?」
「「(着替えあったんだぁ……)」」
思う存分砂糖を舐め取られた小夜をつれて瑠維が洗面台にいき、その後戻ってきた二人の会話に、優菜と涼はうわぁ、と頭の中で声を上げる。
しかし、それと同時に二人は顔を見合わせた。
もし。
もしあの時優菜が涼を瑠維が小夜にしていたように舐めていた場合。
濡れ鼠のような状態で涼は自分の家に帰らなくてはいけなかったのではなかろうか。
二人が瑠維を見つめると、瑠維は小夜を手に乗せて愛でながら視線を合わせて、にやりと笑う。
「涼くん。今度はねぇ、あのぉ……お兄ちゃんいないときに、家に来てお話しない~?」
「……あぁ……そーだな……」
自分たちの安全のために。
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