1話完結
会話風景(巨♀、小♂)
「今日も平和だネェ。シルドラ」
「……」
「おや?おやおや?まただんまりかい?
だんまりを続けるのもいいけど、僕がまた好き勝手君のポケットにもぐりこんだりして遊んじゃうよ?」
「……ひねり潰すわよ」
「おぉ、怖い怖い。僕の女神様はご機嫌斜めなようだね。何かあったの?」
「……別に何も」
「はい、嘘ダメだよ?すぐ分かるんだから。ほら、見難いだろうけど僕を見て?ちゃんと」
森の中、岩壁にもたれかかる女とその肩に座る男の会話が響く。
男のふざけた物言いに冷徹に切り返す女。
そんな彼女に言葉を投げ続ける男。
やがて女……シルドラは肩の男を見ようと首をそちらに向けるが、いかんせん自分の顔のすぐ横。
見ようとしても視線が絡むはずも無い。
「……顔くらい見える位置に出しなさいよ、アルレンス」
「やっぱり見えないんだ。そうだよねぇ」
「分かってるなら出しなさい。本気で捕まえに掛かるわよチビ」
「あぁ、本当に不機嫌だね。シルドラ。
人間好きで人間狂いで小さい物大好きな君がいったいなんで怒ってるのか僕には皆目見当がつかないんだよ。一体どうして、何で怒ってるのか僕に分かるように懇切丁寧に説明してくれないか?」
「……アンタのマシンガントークですでにげんなりしてるわよ」
「それでも僕から離れたくないんだろう君は。ほら、早く教えてくれたまえよ」
ぺしぺしと顎の横を叩かれる感触に、シルドラは息をついて壁に……アルレンスから見れば絶壁ともいえる岩壁に背中を預けなおした。
「……あんたが言った三要素。また陰でこそこそ言われただけだわ」
プイッと顔をシルドラが動かして、その動きで動いた毛髪がアルレンスに襲い掛かるが彼は慣れた様子でそれを腕で受け止めて、首を戻した彼女に合わせて流れる髪を眺めてはその一房を手に収めて握ったり梳いたりと弄ぶ。
「……人間を好きになっちゃいけないなんて条例、無いのに何でコソコソ悪いことしてるように言われなきゃなんないの?
納得いかないわけ。腹立つから思いっきり石投げ込んでやったけど!」
「君から見て普通の石なら僕から見たら僕より小さいにしても大岩なんだろうなぁ」
「アンタどっちの味方よ」
「もちろん愛しのシルドラに決まってるじゃないか。何を言い出すんだい?
人間好き、人間狂い、小さい物好き大いに結構!僕はそんな君が大好きで仕方ないんだからね。
僕の住んでる町に来ても、君は町に被害を与えるような動き方はしないし。他の巨人たちとは大違いだ」
肩に乗るアルレンスの言葉に、シルドラは深く呆れたようなため息を吐き出して、壁に後頭部を押し付ける。
冷たい岩壁。アルレンスからはゴリゴリと岩が削れる音がしたが、気にするようなことはせずにさらさらな巨人の毛髪を堪能し続ける。
「巨人の街近くに町作るあんたらの先祖はどうかしてたわ」
「そうだねぇ。昔は巨人のせいで町が崩壊したことあるらしいから。
まぁ最近でもその危機はたびたび来るけど、そんなときは大抵君が大好きな人間の住処を護ってくれるだろ?」
「……子供をこの町に向かわせる巨人の親達の気が知れないわ」
「君達からすれば人間なんて人形と同じだからね」
「……そんなことは無い」
「本当に?」
「……巨人は血の気が盛んだから、自分とは違うモノに猛威を振るいたがるのは認めるわ。
私だって本能的な願望が無いわけじゃないし……でも」
自分の髪がいじられているのを感じてチラリとそちらに瞳を向けて。
「……アンタの前ではそんな獣じみたこと、したくないし……」
「イヤだなシルドラ」
「何」
「人間や知識のある生き物は全部獣でケダモノだよ。僕だって暗い願望の一つや二つ持ってるしね」
「たとえば?」
「君に食べられたいとか」
「人を使って自殺しようとするのやめてくれないかしら?」
「アイタタタタタタタ!ごめんごめん!じゃぁもう一つも教えるから許して」
「聞きたくない。ロクなことじゃなさそうだから」
「あぁ、確かにロクでもないよィタタタタタ!!」
会話の最中に片手をアルレンスに寄せてその身体を痛みを与える程度に握り締める。
それでも彼の減らず口が減ることは無い。
むしろ増える一方で。
シルドラは小さく吹き出して、喉の奥で笑っていた。
「懲りなさいよちょっと」
「イヤだな。僕が懲りたら誰が君とこんなに楽しいおしゃべりをするというんだい?」
「適当にまた見繕うわ」
「やったこと無いくせにまたとかつけないでよ」
くだらない会話を繰り返す二人。
気が楽になったのかはたまた抜けたのか。どちらかは不明だが、まだ夕方にもならない内にシルドラはまどろみに落ちた。
首が反対側へ傾いて、寝息と共に眼下の膨らみとアルレンスの乗る肩が上下する。
その伸ばされた首元に寝そべり、空を見上げてアルレンスは笑っていた。
「ねぇシルドラ。寝ているから言うんだよ。君が寝ているから。
巨人は血の気が多い。自分より弱いものを支配したがるんだ。
だから僕は君のその僕よりも暗い願望を、種族の所為で組み込まれた業を満たしてあげたいんだよ」
起き上がり、揺れる肩の上で立って伸びをして腕を伝って地面に降りる。
彼女の座る全体が見える位置まで移動して、アルレンスは微笑んだ。
「でも君は優しいからそういうことはしないんだろうなぁ……」
アルレンスの言葉はただ響いて消える。
大きな寝顔を下から見上げて、夕方になって宵闇近くになるまでの時間、彼はずっとその寝顔を見上げ続けていた。
巨体が身じろぎ、薄目を開けて彼がいた肩を探り、いないのに気づいて目を見開いた彼女と視線が絡み合う。
「……起こしなさいよバカチビ」
「寝顔を見たくてついね」
「高くつくわよ、もう……あーぁ。暗くなっちゃって……帰るわよ。ほら」
見下ろして文句をつけてから宵闇に染まりかける空を見上げてシルドラはぼやいて両手をアルレンスに伸ばす。
彼は大人しくその手に身体を預けて、彼女の動きを体全体で感じていた。
「ねぇシルドラ?」
「だから何なのよアルレンス」
「僕は君に何をされても嫌いにならないし恐れない自信があるってこと忘れないでね?」
「はぁ?意味わかんないし……まぁいつものことだけど……
できるだけ覚えといてあげる」
「うん、できるだけでいいよ。僕は君のためにいるんだから」
自分より小さい相手が自分を気遣うというのは、なんだかこそばゆい。
両手に包んだアルレンスとくだらない会話をまた繰り返して、彼女は町の傍に彼を降ろし自分も帰っていく。
明日またくだらない会話をするために。
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NoTitle
あとちらりと出てきた町に襲撃してくる巨人の子供の話などいろいろ妄想を書き立てられます。