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1話完結

最上無二の(人間♂、小人♀)

 ←見ているものは(巨人♂・小人♀/漫画) →一応BL(小人女装中)
命懸けに近いかくれんぼ。
私は息を殺してジッと、長すぎる髪を前に回して必死に隠れていた。
ズゥン、ドン、ズシンと鈍い音と振動が辺りに響き渡る。

「…何時まで隠れる気だ?
まさか、俺のあの言葉を本気と思ったか?」

ビクッ!と響いた声に私は身体を震わせた。

かくれんぼをすることになった原因。

「もし本気にしたなら…お仕置きはしないとな…?」

余計に出て行くものか。
何の役にも立たない使い魔として有名な小人という種族の自分を受け入れた、大きな人間の魔導戦士の彼…ツヴァイグ。

「酷いお仕置きは嫌だろう?
ほら、軽く済ませたいならさっさと出てこい」

お仕置き確定で出ていく訳無いだろバカヤロー…とか言いたいが、言ったら声で位置がばれる為に堪える。

こうなったのは、ツヴァイグがある妖精を助けたことが始まりだった……



















「ぁ、お帰り!ツヴァイグ!
…ってその子誰?!ケガ酷いし!!」
「帰りに見兼ねて拾った…が、小さくて俺じゃ治療が出来ん。
お前が看ろ。死なれたら寝覚めが悪い」
「はいな!」
「…フ、頼んだぞ」

宿で留守番をしていた私の所に帰ってきたツヴァイグは、掌に小人の私より少し大きな、ケガをしている妖精の女性を乗せていた。
グッタリとして意識がないその身体を自分のいるテーブルにタオルを置いてからその上に降ろす。
その後、言い放たれた言葉に私は嬉々として言い付けを守り、彼が再び部屋を出る前、出た後と世話をしていたのだが。

「…ん…んぅ…?」

「あ、起きた!大丈夫?!痛い所ない?
目立ってた傷は薬で全部治したけどさ…!
あ、心配しないで?まだ材料あるから、薬はたくさんあるからね!」

「ここは…?貴女が助けてくれたのですか…ありが―っ?!」

目が覚めた彼女を見て声を投げた私。
そんな私を見てから、彼女はギョッとした顔をしてから一変し汚らしいモノを見るように私を眺めて。

「なんてこと…!低能な妖精の出来損ないに救われるなんて…!
死んだ方がマシでしたわ!」

「……!」

言われたこの言葉は、正直聞き慣れている。
小人は妖精のように羽根がなく、飛べない。
それだけに留まらず、魔力を持つ者もいない――訳ではないが、それは極々稀な稀少な例で、持たない者が多い。
私も、魔力を持たないただの小さすぎる人間もどきであり、妖精の出来損ないの一匹でしかない。

どう言葉を繋げようと考えていたその最中、遥か彼方の巨大な扉が開いて。

「戻った。様子はどうだ?回復させられたか?フロウ」

「ぁ、ツヴァイグ!お帰り!
うん、目は覚ましたよ!いま加減を聞いて」
「貴方様が私を救おうとして下さったのですね!」

「…随分と元気そうだな」

戻ってきたツヴァイグに声を上げていた私を横目で見てから、彼女は当て付けの様に羽根を震わせて飛び上がり、素早くツヴァイグの顔の前に飛んでいく。
ツヴァイグがそれを見下ろして手を差し出せば、彼女は優雅にその上に花弁の様に舞い降りた。

「流石に妖精。動きに華があるな」
「お褒め頂き光栄ですわ。ツヴァイグ様。
救っていただいて、どうお詫びすれば良いか…」

チラッとこちらを困った様に見るツヴァイグと視線が絡むが、すぐにそれは妖精に邪魔される。
私は大して気にすることなく、彼女の治療に使っていた薬草類を自分の荷物に詰め直して。

「俺は何もしていないが…」
「とんでもございません!
そうですわ。今後は私があの出来損ないの変わりにお供致しましょう!」

え。

とんでもない妖精の言葉に、思わず私は二人を見る。
妖精はツヴァイグの顔の前に浮かび上がったまま、自分を売り込んでいた。

「出来損ない?」
「えぇ。あの小人です!良い使い魔に巡り会えず、仕方なくあの雌を飼っているだけなのでしょう?
小人は飛べもしないし、魔力を持つものは少ない。妖精の恥さらし。出来損ないですわ。
私はれっきとした妖精ですから、魔力は豊富です。治癒の魔法を覚えていますから、きっと役に立てると思いますの」

ゾクリ、と私の背筋が冷えて震える。
ツヴァイグを見るが、妖精のせいで表情が解らない。

「…そうだな。その点で言えば、あいつは確かに出来損ないに入るか。魔力もないし、飛べもしない。
ミニチュアサイズの人間…別名人間もどき、だからな。
戦闘では役にも立たないし、お前のような妖精の方が役には立ちそうだ」

響いた声に、頭が思い切り殴られたような衝撃を感じて視界が歪む。

「フン…おい妖精。そこまで元気なら、少し付き合え」
「はい、喜んで!」

「フロウ…少しまた出る。すぐに終わるから、大人しく待っていろよ?」

「…………」

無言の私を気にせずに、彼女を緩やかに捕まえ扉から外に出るツヴァイグ。

あぁ。

私、捨てられるのかな…?
それなら。

別れを告げられたくなんてないから。言われたくないから。

テーブルから飛び降り、絨毯に着地して、戻って来ない内に見えないだろうと思われるベッドの足の陰に隠れた。
翌朝、二人が出て行ってからこっそりと自分も野良として出ていけば良い。

そう思っていたから。

しかし。

「予想通りヒステリックだったな…耳が痛い…
おい、フロウ。戻った――…?フロウ?」

戻って来たのは、ツヴァイグただ一人だけ。
暫くしてから、クッ、と喉の奥で笑う声が聞こえて。

「そうか、フロウ。勘違いで隠れたか…あの妖精はいないぞ。ほら、出てこい」

何時になく優しく言葉をかけてくるツヴァイグに、先程までの様子と言葉を思い出して素直に出ていけない私がいた。
そうして暫く時間が過ぎた後に。

「…そうか…なら。
かくれんぼだな。鬼の俺が捕まえてやる。覚悟しろよ勘違い使い魔」

そんな言葉の後から、床を這い回るように四つん這いで床の上を彼が捜索しだし、今に至る。

「フロウ。いい加減にしないと本気で怒るぞ。またストラップの刑にしてやろうか」

ストラップの刑とは、以前やられた胴体を紐で縛られて彼のベルトに宙吊りにされる刑である。
揺れが酷いので数回戻した経験があった。

それでも息を殺して動かない私に、神からの天罰が下ったのか。
彼が何の気無しにベッドに手を付いたのを見て隠れ直した瞬間、パラパラと舞い落ちてきた細かい埃屑。
私はそれを盛大に吸ってしまい。

「くしゅっ!は…くしっ!」

二連発のくしゃみ。
音と振動が止み、やがてまた響き出すと近付いて。
ヌッ、と目の前に現れた手指に身体を震わせた私を構うことなく、その手指は辺りをまさぐり私に触れると捕まえて引っ張り出した。

「見つけたぞ。さて、お仕置きの時間だ」

ぐいっと顔の前まで連れていかれ、私はツヴァイグの灰色の切れ長の瞳が愉しむように細められているのを見て、顔を背ける。

「いつものように反論しないな?」
「だって…」
「捨てられると思ったか?勘違いも甚だしいな。
さっきも言ったが、この勘違い使い魔め」

「にゅっ!?痛い痛い!!グリグリ止めて~!!」

掴み直されて親指の腹で頭をグリグリと撫で回される。
聞こえは良いが、指の動きに合わせて首があっちへこっちへと行くのだから相当痛いのだ。
指が離れて頭や顔に別の手の指がやって来ると埃等を爪先で摘んでは弾き飛ばし、ツヴァイグは私を捕まえたまま緩やかにベッドに腰掛けると掌に私を座らせるように置き直した。

「…妖精の方が、役には立ちそうだって言ったもん」

プイッと顔を背けて言った言葉に、ツヴァイグか小さく息を吐き出す。
「まぁ、な。だがそれとお前とは天秤に掛けていない」
「だって、私人間もどきだし」
「拗ねるな。まず話を聞け…フロウ」
手を動かされ、また顔の前に連れて行かれると瞳が合った。

「あの妖精はダメだ。というか、魔導戦士の俺に魔法が使える事を売り込んでどうする?
回復は魔力が尽きない限り出来るさ。
だが、魔力が尽きればどうなる?
俺が愛用してる魔力回復薬はどこで買えるものなんだ?」

最後の言葉に、私はピクリと反応する。
ツヴァイグは言い難そうな表情を浮かべて空いている片手で頭を掻き、
「…日常や薬剤調合ではお前、役立ってるぞ。良い使い魔を持てたと何回思ったか…
人間の身体に効果のある薬を作るなんて、大量の材料やら手間隙やらが掛かるだろうに嫌な顔せず、嬉々として作るからな。お前。
話し相手としても愉しめるしな…まぁつまり…」
ツヴァイグは息を一つ吐き出して、私を見つめる。

「俺はお前を手放す気はない。
専属の調合士をむざむざ捨てる阿呆がいるか?
これからも俺の役に立てよ。フロウ」

言われた言葉に、私は返す言葉が見付からずに固まっていたが。

要は一緒に居ても良いと言うことだよね?

どうした、と顔を近付けてきたツヴァイグ。
私は温かい彼の手の上で立ち上がり、その顔に飛びついた。

「…!」

「よ、良かった…!私…私、本当に役立たずなのかなって…!」

「褒めてやっと理解したか?現金だな…離れろ。ふざけてバクリと食べるかもしれないぞ?」
「…離れる…」
顔から私が離れ、それに彼が愉快そうにクスクスと小さく笑う。

「お前は俺には最上無二の使い魔だ。
勝手に消えたりとかはもう許さないからな。いいな?フロウ」

ツヴァイグの言葉にコクコクと笑顔で頷く私。
彼はよし、と小さく呟いて私の頭を指先で優しく撫でた後に、ニヤリと笑った。
「さて。話は収まったから…次はお仕置きだな?」
「……~~ッ!?」
「仕事の依頼を受けてきた。それの為の防止アクセサリーやらもさっき買って来ていてな」
顔を青く一変させ強張らせる私を目の前に、ベルトに付けている小さいバッグから彼は豪奢な十字架の形に細工されたストーンチェックのブローチを出して。

「ストラップの刑も考えたが、また具合を悪くされたら困るしな?
今回は、これに磔だ」

「や、やだやだ!」
「嫌だじゃない。俺を信用もせずに勘違いした罰だ。
大人しく受け入れろ」

言われた言葉に私は反論出来ず。
ツヴァイグは私を逃げぬ様に捕まえて荷物から糸を何本か編み込んだ様な、彼の目から見れば極々細い紐の束を取り出し。
私をその紐を使ってブローチに手早く縛り付けて磔にし、それを胸に着ける。
何回も私をお仕置きで縛った経験があるからか、痛くはないが緩くもない絶妙な力加減で縛られ、私はしっかりと固定されて。

「ストラップよりは安定してそうだな?
明日の朝まではそのままだ」

「ぅ~…ごめんなさいでした」
謝罪した私に彼は無言を返したが、変わりに手指がやってきて頬を数回指先が撫でていく。

その後、食事は宿の食堂で取りに行くため他の客の奇異の目に晒された後、眠るときは彼の顔の横の枕に磔のまま寝かされ。
翌朝、解かれたと同時に身体が痛いと訴えた私をやれやれと言った様子で治療してくれるツヴァイグが居たのだが、それはまた別のお話しなのである。
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