ウラとオモテ~光と闇~
ウラとオモテ~光と闇~ Act.00
『コレは夢ね』
『そうかな?』
『だって私の世界には巨人なんて居ないもの』
『俺の世界にはお前みたいな人間はたくさん居るぞ?』
『ならコレは夢よ』
『……そうだな。こんな黒い部屋知らないし。なら夢か。
お前を捕まえてるこの感触も』
『むきゅ……っ、ちょっと。死ぬから止めて』
『夢なら死なない。覚めるだけだ』
にっこりと遠近法の狂った大きな顔が、少女を見下ろす。
『ふん。勝手に言ってればいいわ。私は夢の住人の言葉なんて……いいえ。他人の言葉なんて興味ないし』
『ホント、クールだなお前』
『所詮人間は……知識を持つ生命体はみんな孤独なの。分からないの?』
『分かりたくもないな。まぁ、老い先短い人間の友達は作らない方がいい、と言われてる巨人に人間の感情を知る術もないが』
『種族差別?えげつないこと』
『俺だってそう思ってるさ。人間だって巨人を外敵、人食い怪獣扱いだぞ?
まぁ、狂った奴らが一時期人間襲って食ってたのは事実だし、癒しようの無い傷を歴史に刻んだことも分かってるが』
『へぇ?私は貴方の食事だったの。知らなかったわ』
『お前な。俺は人は食わないぞ』
少女を握る手を動かしはせず、背中を曲げて顔だけを寄せる青年。
巨大な顔の接近に少女は悲鳴も聞かせず怯えも見せず、毅然と鼻を鳴らしてあしらう。
『脅しのつもり?』
『違う。本当ひねくれてんなお前』
息をついた青年は指先で少女の頭を撫でると、下に下ろす。
少女は滑り落とされ、たたらを踏んで体勢を立て直し立つと、巨人の青年を見上げてすぐに顔を背けて走っていく。
暗闇に消えた少女を見下ろして、青年は瞳を閉じる。
スゥッと意識がぼやけていく。
覚醒するときの合図。
それは少女も同じだった。
走っていた身体が身体を傾がせ、黒い床と接触する瞬間に細かな光になって消える。
青年も座ったまま、同じように。
そうして二人は自分の世界で、並行する交わることの無い世界で日中を生きる。
「なぁ、またあの夢見たんだけど」
「人間の可愛い女の子とのデートの夢をか?お前人間好きだな……」
「お人形みたいに可愛いんでしょ?私も見たい~!
んで、メイド服とか軍服とか、色々着て欲しいんだけど!!」
「……人形じゃないからな?念のため言うが」
「失礼ね!分かってるわよ!」
「グラン。なんならこっそり人間の街に行ってそのチビ探すか?」
「チビ言うな。あいつを罵るのも触っていいのも何をしてもいいのも俺だけだからな」
「うわ、何その傲岸不遜な態度!その子カワイソ~」
青年……グランの周りは常日頃から人が堪えない。
横で笑う幼馴染二人もよき理解者だ。
青年は孤独を知らない。絶望を知らない。
だからこそ、自分とは対となる雰囲気を持つ、夢にでてくる小さな少女を気にしていた。
今、彼女は何をしているのだろう。
そんなことをのんきに彼が考えているとき。
彼女は。
「あんたなんて生まなければよかった!!」
両手で頭を多い、うずくまり。
罵声を背中に浴びながらその背中を、腕を殴られ、蹴られ。
暴行の嵐。
「この化け物!化け物!!」
ごめんなさい。
ごめんなさい。
もういっそ。
殺してください。
お願いだから。
おねがいだから。
ねぇ。
オカアサン。
「雪姫さん!?貴女また……!?大丈夫!?病院に行きましょう!」
「……ほっといてよ……あわれみなら……要らないから」
「先生はそんなこと……!」
「善人ぶるな!!私は、私は誰も信じない!!」
信じて、たまるか……!!
父親は死に、母親はそれを娘の少女……雪姫の所為にして暴力、いわば虐待をすることで精神を落ち着かせていた。
身に覚えの無い罪への罰。
少女はそれが理不尽なことだと理解したと同時に、絶望した。
私は親に愛されていない。誰からも必要とされていないのだと。
周りはそんな自分を庇護することで善人に見せようとしているのだと。
だから夢で出てきて自分に優しい顔を向けるあの巨人の男が、彼女は嫌いで仕方なかった。
今日こそ、彼の居ない夢を見れれば良いと。
学校から帰った彼女を出迎えたのは。
「殺シテヤルッ!!!」
母親の奇声と、背中への衝撃。
Act.00 光と闇
(今日もあの子と会えるのか)
(私はもう終わるのよ)
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