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Lizerdia-リザーディア-

巨人と小人関連のイラスト、小説等を扱うブログです。

ここから…(巨♂・小♀/姉弟)

1話完結


「こ、こないで……!こないでよぉ!!」

「懲りないなお前……」

必死な声と、何処か呆れたような声。

薄暗い月明かりだけが部屋を照らし、その部屋に大小の影を作り出す。
巨大な影と、矮小な影。

巨大な少年が自分の足元。
半歩にも満たない距離で尻餅をついて喚いている小さな少女を眺めて。
また立ち上がり逃げようとする姿を眺めては、嘆息する。

「何時まで続けるんだ?どうせ出られないし外が危険なのは知っているだろ?」

小さい相手が逃げ込める隙間などはすでに対策済みで。
台などの下にはもぐりこめないようにしてあるし、壁に面してある棚の壁との隙間は彼の腕が入るくらいのスペースはしっかりと開けている。

「大人しくもどれよ」

少年の声に、少女は一度少年を振り返るが、それでも逃げ続ける。
少年はちょろちょろと動き回る少女を眼で追って、ゆっくりと足を動かし始めた。
必死になる小さい姿は彼の目から逃れることはできず。
やがて、部屋の隅のほうへと追い詰められて。



「ほらな?今日もこんなオチだ」



目の前に少年がしゃがみこんで言葉を投げる。

「ヤダ……」
「ヤダじゃない」

「イヤ……!返してよ……!家に帰してよ!!」

「……何度言ったら、分かってくれるんだよ?」

少年が手を床について、少女の傍に顔を寄せる。
少女は恐怖に染まる顔で、瞳で、それを涙を流しつつ見上げていた。










「ここがお前の家なんだ。翠(すい)」










「嘘つかないで!私の家、こんなに大きくない!!」
「翠。いい加減分かってくれよ。頼むから」

「この化け物!魁(かい)に化けたって私は信じたりしない!信じたりしないッ!!」

「翠」

「呼ばないで、来ないで!!」

見下ろしている中、少女……翠が走ってまた別の場所へと逃げていく。
少年はそれをみて、身体を起こしてその場に胡坐をかいて。
天井を仰ぎ見て息を吐き出した。


「……化け物、ね……酷くねぇ?……姉ちゃん。
 オレ、本物の……弟の、魁なのに」


少年……魁の独り言のような声など翠には届かない。
ただ、逃げるのに必死だった。

その姿を横目で捉えて、魁はまた立ち上がる。

足をまた、今度は普通の歩みでズンズンと翠のほうへと向けて近寄り。
翠の前に足を勢いよく踏み降ろす。

「キャァッ!!」

小さい悲鳴。もう何週間もコレを続けてる。慣れていたために翠に怪我をさせていないことも分かっていた。




双子だから、きっと普通の家族や兄弟より分かるのだと、彼は自負していた。



二人は双子だった。
ただ、姉が……翠が縮小病という奇病に掛かって人形のように小さくなってしまっただけ。
そして、翠はそれをいまだに受け入れられていないのだ。

ゆっくりと視界を下に向けて。

怯えて震える翠を見て、魁は悲しい顔で笑った。
「……もう、コワイのイヤだろ?
 部屋に戻ろう。遅いんだ。寝ないと持たないしさ……来いよ」
「さ、触んないで……!イヤ!イヤァッ!!」

「翠……姉ちゃん」

「呼ばないで!降ろして!離してよぉ!!」

身体をかがめ、後ろへと下がろうとしていた小さい身体を両手でできるだけ優しく包み持ち上げる。

「……暴れないでくれよ。くすぐったいだけだって……いつも言ってるだろ?」

手の中でじたばたと暴れる翠に呟いて、中で噛まれようが引っかかれようが蹴られようが、彼は歩いて。
今の翠の部屋となっている、ドールハウス。
天井が取れる箱型のワンルームタイプのもの。
病気が発祥し、診断されてから魁が購入したものだが、こまごまとした小物まで全てそろえてあつらえた。
今その中は、とんでもない荒れ放題になっているのだが。
そのくたびれたベッドの上に手の中の翠をおろして、また逃げ出そうとするのを壁から片手で剥がしつつ天井を閉じた。
魁が翠が逃げるようになってからつけた掛け金を嵌め込み、天井や壁を叩く小さい音が響く。
プラスチックの窓ももはや傷だらけだった。割れはしていないが。

「翠……ごめんな?でも、閉じ込めないとお前逃げるだろ?
 ……朝起きて、気づかないうちにお前踏んづけたりしたりしたくないんだ……」

よくテレビで流れる。
縮小病の患者が家族や知人に知らぬ間に殺されていたり、ペットに食い殺されたりしているという内容が。
恐ろしくて仕方なかった。
それは両親も同じで、部屋から……魁の部屋からできるだけ出さないように、というように決めていた。

ベッドにもぐりこみ、魁はドールハウスの中で物が投げられ叩きつけられる音を聞いて。
瞳を閉じた。
早く、翠と笑い会える日がまた来ればいいと。




















眠りから意識がじわじわと浮上する。

それを感じつつ魁は自分の顔に違和感を感じて其処に無意識に手を伸ばして。

チクリとした痛みに、意識を覚醒させる。
目を見開いて視界に入ったものは三つ。

自分の手。人差し指に血の玉がぷっくりと浮かんでいる。
もう一つは楊枝ほどの大きさの、切っ先に赤い血がつく剣。
最後にそれを握っている、自分の双子の姉の……翠の顔が、異常に近くにあった。

「……翠……?」

「……ッ……!!」

ぼんやりと名前を呼び、それに反応した翠が剣を自分の目に向けて。
瞬間的に目を貫かれると理解した魁は咄嗟にその小さい身体を小手先で払いのけてしまっていた。

まるで羽虫を落とすように。

跳ね除けると同時に響いた翠の悲鳴にしばし呆然と天井を見て、ハッとして翠を弾いてしまった方を見ながら飛び起きた。
ベッドの上でうずくまる小さい姿を見つけ、そばに手を置いて見下ろす。
特に外傷はないように見えた。

「ご、ごめん!翠……でもなんで?あんなことされたら誰だって跳ね除けるよ?!」

転がっていた剣……ドールハウスに彼自身が飾った飾りものを摘んで、ベッドサイドへと置いた。
翠はフラフラと上体を起こして、その場に座り込む。

「……翠……」
「――怒りで」
「え?」

「目をえぐれば、怒ったあんたが殺してくれるって……思ったからよ……」

初めて返されるまともな言葉。
ゆっくりと顔を上げた小さなその表情は、いつもと同じように泣いていたものの、恐怖や怯えはない。

悔し泣きとか、そういう類のそれ。

「翠」

「分かってた……わかってたけど、受け入れれなかった……!
 なんで、何で私なのよ……!なんで私なの……!?
 こんな姿でどうやってこれから生きていくの……!?
 人にすがりつく、寄生虫のような生き方しか出来ないなら……もういっそ、殺して欲しい……!」

病気にかかる前の翠とは大違いな発言。
前向きなのが、翠だったはずなのに。

病気とは、大きさとは、こんなにも人を変える。

「オレは何をされても。翠は殺さない……絶対に、殺さない……殺せない」
「なんでよ……双子なら、私の気持ち、分かりなさいよ……!」
「イヤだ……翠……死んでほしくなんてない……双子なんだ。当たり前だろ?」
「どうせいつかきっと私がストレスになるわ!!」
「ならないよ……!」

「きっと、きっとなる!だってノイローゼになってる人だって大勢いる病気じゃない!!」
「だから――……ッ、オレは、ならないんだよ!!!」

「ッ!!」

バスッと思わず魁がベッドを叩き、その所為で揺れたベッドと起こった風に翠が顔を覆い倒れる。
それに魁はまた息を呑んだ。

「ごめん翠……!大丈夫?!」
「ホラ見なさい……コレが酷くなればあんたも精神疾患患っちゃうわよ!!」

「そういう反論ばかりするから思わずカッとしちゃっただけだっつの!!
 翠……頼むから。頼むから、殺してとか言わないでくれよ……
 オレ……お前殺したくないし、殺せないし……!
 また、二人でいろんなことやって楽しみたいし!」

魁の発言に翠が泣き腫らした顔で魁を見上げ、魁は悲しそうに翠を見下ろす。
ゆっくりと、ゆっくりと。
魁の手が翠の両側に添えられる。

「翠……がんばって生きよう?病気、いつか絶対治るから」
「……寄生虫なんて、情けないマネ……したくないのよ」
「……うん。翠はオレと違って強いもんな」
「……でも、この姿じゃ何も出来やしないわ」
「たまには、弟のオレにも甘えてよ……
 あの部屋だってオレ、翠のためにあつらえたんだから……グッチャグチャになっちゃったみたいだけど」

ドールハウスを見つめて、プラスチックのガラスが割れているのを見つめる。
掃除が大変そうだと考えながら、魁は手に小さいポツンとした感触が生まれたのに気づいて視線を戻す。
翠が魁の手を触って、なんともいえない顔をしていた。

「双子でも私のほうがチョットだけデカかったのに」
「あれ?違うよ。オレの方だよ」
「はぁ?あんた目腐ってたんじゃないの?私よ。わ・た・し!!」
「翠こそおかしかったんじゃないの?オレだよ。オ・レ!」

くだらない言い争いをして、そっと手で包んで翠を持ち上げる。
翠は暴れることも喚くこともせず、泣き腫らした目で真剣に魁を見つめていた。

「翠」
「魁」
「オレたちってさ」
「どうしようもないくらい」

「「お互いが大事なんだね」」

言い合って、言い終わると同時にどちらともつかず笑い出す。
魁は翠を手に乗せたまま横たわり、ベッドに翠を降ろすと息をついた。

「あー、久しぶりに翠と話せた。オレメチャクチャ嬉しい」

「あらそう?光栄ね」
「そこー、自惚れるなよ?」
「ハイハイ、と。
 アンタはそのままジッとしてなさい」
「え?何する気?」

「ちょっと巨人の身体探検を」

「えぇ?!ちょ、普通一緒に寝転がってもうちょっと談笑しない!!?
 ――あぁッ!!?もう、ちょ、くすぐった……!服ん中入んないでくれよ!!」


元に戻ると同時に唯我独尊に振舞う双子の彼女によかったと思う反面。
服の中にもぐりこまれてしまえばどう反応するべきか。
腋をくすぐられるように移動され、わき腹をもぞもぞと這われる感触に震えるが、どうすることも出来ない。

『おー、おへそって意外と深いのね。私の手くらいなら入りそう……』

「ッ!!翠、やめ……!」

『あらあら。そういえばアンタくすぐられるの苦手だったもんねぇ?退屈しなさそ』

「翠、早く出て……!お願いだから……!」

語尾に音符がつきそうな勢いで言われた元気一杯の小さい姉の言葉に、魁は懇願し続けて。
ようやく出てもらえたのは、翠が上半身をくまなく這いずり回りからかってからだったのは言うまでもない。

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会話風景(イメージ)

イラスト


会話風景(色なし)       会話風景(色あり)


PCのペンタブが帰ってきたのでリハビリに写メで撮ったものをPCで塗ってみました。
久々だから扱い方メチャクチャ忘れて汚くなりました。やっぱり慣れてるアナログのほうが無難かなぁ…
一話完結『会話風景』のキャラ二人のイメージです。

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会話風景(巨♀、小♂)

1話完結




「今日も平和だネェ。シルドラ」
「……」

「おや?おやおや?まただんまりかい?
 だんまりを続けるのもいいけど、僕がまた好き勝手君のポケットにもぐりこんだりして遊んじゃうよ?」

「……ひねり潰すわよ」

「おぉ、怖い怖い。僕の女神様はご機嫌斜めなようだね。何かあったの?」
「……別に何も」

「はい、嘘ダメだよ?すぐ分かるんだから。ほら、見難いだろうけど僕を見て?ちゃんと」


森の中、岩壁にもたれかかる女とその肩に座る男の会話が響く。
男のふざけた物言いに冷徹に切り返す女。
そんな彼女に言葉を投げ続ける男。
やがて女……シルドラは肩の男を見ようと首をそちらに向けるが、いかんせん自分の顔のすぐ横。
見ようとしても視線が絡むはずも無い。

「……顔くらい見える位置に出しなさいよ、アルレンス」

「やっぱり見えないんだ。そうだよねぇ」
「分かってるなら出しなさい。本気で捕まえに掛かるわよチビ」
「あぁ、本当に不機嫌だね。シルドラ。
 人間好きで人間狂いで小さい物大好きな君がいったいなんで怒ってるのか僕には皆目見当がつかないんだよ。一体どうして、何で怒ってるのか僕に分かるように懇切丁寧に説明してくれないか?」

「……アンタのマシンガントークですでにげんなりしてるわよ」

「それでも僕から離れたくないんだろう君は。ほら、早く教えてくれたまえよ」
ぺしぺしと顎の横を叩かれる感触に、シルドラは息をついて壁に……アルレンスから見れば絶壁ともいえる岩壁に背中を預けなおした。

「……あんたが言った三要素。また陰でこそこそ言われただけだわ」

プイッと顔をシルドラが動かして、その動きで動いた毛髪がアルレンスに襲い掛かるが彼は慣れた様子でそれを腕で受け止めて、首を戻した彼女に合わせて流れる髪を眺めてはその一房を手に収めて握ったり梳いたりと弄ぶ。

「……人間を好きになっちゃいけないなんて条例、無いのに何でコソコソ悪いことしてるように言われなきゃなんないの?
 納得いかないわけ。腹立つから思いっきり石投げ込んでやったけど!」

「君から見て普通の石なら僕から見たら僕より小さいにしても大岩なんだろうなぁ」

「アンタどっちの味方よ」

「もちろん愛しのシルドラに決まってるじゃないか。何を言い出すんだい?
 人間好き、人間狂い、小さい物好き大いに結構!僕はそんな君が大好きで仕方ないんだからね。
 僕の住んでる町に来ても、君は町に被害を与えるような動き方はしないし。他の巨人たちとは大違いだ」

肩に乗るアルレンスの言葉に、シルドラは深く呆れたようなため息を吐き出して、壁に後頭部を押し付ける。
冷たい岩壁。アルレンスからはゴリゴリと岩が削れる音がしたが、気にするようなことはせずにさらさらな巨人の毛髪を堪能し続ける。

「巨人の街近くに町作るあんたらの先祖はどうかしてたわ」
「そうだねぇ。昔は巨人のせいで町が崩壊したことあるらしいから。
 まぁ最近でもその危機はたびたび来るけど、そんなときは大抵君が大好きな人間の住処を護ってくれるだろ?」
「……子供をこの町に向かわせる巨人の親達の気が知れないわ」

「君達からすれば人間なんて人形と同じだからね」

「……そんなことは無い」

「本当に?」

「……巨人は血の気が盛んだから、自分とは違うモノに猛威を振るいたがるのは認めるわ。
 私だって本能的な願望が無いわけじゃないし……でも」

自分の髪がいじられているのを感じてチラリとそちらに瞳を向けて。

「……アンタの前ではそんな獣じみたこと、したくないし……」
「イヤだなシルドラ」
「何」
「人間や知識のある生き物は全部獣でケダモノだよ。僕だって暗い願望の一つや二つ持ってるしね」
「たとえば?」

「君に食べられたいとか」

「人を使って自殺しようとするのやめてくれないかしら?」

「アイタタタタタタタ!ごめんごめん!じゃぁもう一つも教えるから許して」
「聞きたくない。ロクなことじゃなさそうだから」

「あぁ、確かにロクでもないよィタタタタタ!!」

会話の最中に片手をアルレンスに寄せてその身体を痛みを与える程度に握り締める。

それでも彼の減らず口が減ることは無い。
むしろ増える一方で。
シルドラは小さく吹き出して、喉の奥で笑っていた。

「懲りなさいよちょっと」
「イヤだな。僕が懲りたら誰が君とこんなに楽しいおしゃべりをするというんだい?」

「適当にまた見繕うわ」

「やったこと無いくせにまたとかつけないでよ」

くだらない会話を繰り返す二人。
気が楽になったのかはたまた抜けたのか。どちらかは不明だが、まだ夕方にもならない内にシルドラはまどろみに落ちた。
首が反対側へ傾いて、寝息と共に眼下の膨らみとアルレンスの乗る肩が上下する。

その伸ばされた首元に寝そべり、空を見上げてアルレンスは笑っていた。

「ねぇシルドラ。寝ているから言うんだよ。君が寝ているから。
 巨人は血の気が多い。自分より弱いものを支配したがるんだ。
 だから僕は君のその僕よりも暗い願望を、種族の所為で組み込まれた業を満たしてあげたいんだよ」

起き上がり、揺れる肩の上で立って伸びをして腕を伝って地面に降りる。
彼女の座る全体が見える位置まで移動して、アルレンスは微笑んだ。

「でも君は優しいからそういうことはしないんだろうなぁ……」

アルレンスの言葉はただ響いて消える。
大きな寝顔を下から見上げて、夕方になって宵闇近くになるまでの時間、彼はずっとその寝顔を見上げ続けていた。
巨体が身じろぎ、薄目を開けて彼がいた肩を探り、いないのに気づいて目を見開いた彼女と視線が絡み合う。

「……起こしなさいよバカチビ」
「寝顔を見たくてついね」
「高くつくわよ、もう……あーぁ。暗くなっちゃって……帰るわよ。ほら」

見下ろして文句をつけてから宵闇に染まりかける空を見上げてシルドラはぼやいて両手をアルレンスに伸ばす。
彼は大人しくその手に身体を預けて、彼女の動きを体全体で感じていた。

「ねぇシルドラ?」
「だから何なのよアルレンス」
「僕は君に何をされても嫌いにならないし恐れない自信があるってこと忘れないでね?」
「はぁ?意味わかんないし……まぁいつものことだけど……
 できるだけ覚えといてあげる」
「うん、できるだけでいいよ。僕は君のためにいるんだから」

自分より小さい相手が自分を気遣うというのは、なんだかこそばゆい。
両手に包んだアルレンスとくだらない会話をまた繰り返して、彼女は町の傍に彼を降ろし自分も帰っていく。

明日またくだらない会話をするために。

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巨人な執事?(巨♂、小♂♀)

イラスト

巨人な執事?


なんかまた浮かんだので殴り書き。
パースおかしいけど気にしないでください(←/コラ)
……背景は描こう描こう思っていつも挫折orz

これからは大きいほうを巨、小さいほうを小と記すことにします。今までよく変えなかったな私……

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【人外注意!】とある人魚と人間の話(巨ケモ♀、人間♂)

1話完結



「なんで、貴方はここに来る?」
「酷いね。君に会いに来てるんじゃない」
「……物好き。お兄さん」
「こんなオイラと話している君も、相当な物好きだと思うけど?」

あまり人間が立ち入ることがない、鬱蒼と生い茂る森の中。その奥にある広い湖。

そこに湖に身体を半分ほど沈め、上半身を地面に寝転がすように放り投げている少女と。
その少女のからすれば人形のような大きさの男が一人。
澄んだ湖から見える少女の下半身は魚の尾そのもの。
少女は、顔の傍で座り込む“人間”の男をじっと見つめた。
男もまた、少女のぬれた白い頬を小さな手で撫でるように触る。

「君の肌はやっぱり艶々だね。ハリがある。健康な肌だよ。唯一白すぎるのが残念だ」

「……変わったヒト」
「君だってそうだろ?オイラとこうやって話してるんだ。
 この森の魔物たちはみんな人間より大きいから、人間なんてちょうどいいエサだろうに……まぁ、君から見れば彼らもまた、丁度良いエサなんだろうけど」

「……貴方を……食べようとは、した」

「あぁ。そうだったね……でも、君はオイラを食べるのをやめたんだ」

にっこりと言い返す男。
あまりにもあっけらかんとしたそれに、少女は瞳を彷徨わせて困惑して。

するりと身体を少女からすれば泉ともとれる湖に戻して、腕だけを淵に乗せてはまたその上に顎を乗せ、男を興味深そうに見下ろす。
男は少女の動きに合わせてそちらに移動して、目の前に立ってまた子供を可愛がるように少女の額を撫でる。












何時から一人だったのか、もう少女は覚えていなかった。
水の中で、ただの魚と共にずっと過ごしていた。
腹が減れば、水を飲みにきたらしい魔物を不意打ちで襲い、捕まえては食らっていた。
そして、目の前のこの人間の男の場合は。

他の魔物に襲われて、逃げてきて。
その魔物が追いかけて来た所為で水に落下してきた。
初めての出来事で、思わず少女はその姿を両手で受け止めるように捕まえて、苦しそうにしているその姿をただ見つめて。
意識を手放したところで、上のほうへと上ってやってきていた魔物を捕まえていた。
しゃべることのないただの獣のような魔物。
片手でぐったりとしているがまだ生きている小さい、そのとき初めて見る人間の彼を陸地に転がしては魔物を食べて。
そんな中、彼は自力で復活していた。

少女はきっと彼が上げた悲鳴を。男はきっと目の前で自分の倍はある魔物を獣のように食らっていた少女の横顔をきっと忘れることはない。

悲鳴に瞳を見開いて一時食事を中断して男を見下ろした少女だったが、目を見開く男に顔を寄せて。
暫くしてから身体の半分を食い散らかされてもまだ呻いた魔物のほうにまた顔を寄せて食らいはじめていた。
そんな様子を、彼は呆然と見つめるままだった。
骨まできれいに食べて陸地に赤い血の名残が残り、それを水をバシャバシャとかけて洗い流す。
水が彼にも飛んだが、彼は何も言うこともなく、少女を見上げ続けていた。

「「……」」

視線を絡め。それでも無言の奇妙な空間。
巨躯を動かし、男の前に男を握りこめるほど大きな手の平を置いて、顔を寄せて少女は反応を見つめる。
身体を震わせた男を見下ろし続け、やがて舌を伸ばしてその身体を舐めてみた。
冷や汗でも流していたのか、少ししょっぱい味に少女は舌に手を当てて押し返す小さな動きを見てから、その小さな身体を地面に倒して、押さえつけて。

一口大の大きさの頭を口にくわえ込んだ。

しかし、その後魔物のように彼は暴れもしないし呻きもしない。
舌で下から舐め上げても、苦しそうな声を上げるだけ。
普段とは違う獲物の反応に、少女は困惑して口を離して改めて小さな男を見下ろしていた。

「……なんで、暴れない?」
「あの魔物を食らった君から逃げれるなんて、オイラ思ってないし……っていうか、しゃべれたんだね?」
「……一応……は」
「ふぅん……あぁ、でも。オイラさすがにちょっと舐められるのは驚いたよ。一気にこう、ガブッていかれると思ってたからさ……あはは」
「食べられたい?」
「いや、そういうわけじゃないけど!
 ……でもまぁ、一応は君、オイラの命の恩人だし……その恩人に食わせろって言われたらまぁ、オイラ食べられるしかないよね」
「オンジンって何?」

「えぇっと……魔物だから知らないのかな?
 恩人ってのはね、その人を助けてくれた人をさす言葉だよ。
 だからこの場合、オイラは君に助けられたから。だから、君はオイラの恩人」

「……水に落ちて、勝手に意識なくして、勝手に復活したのに?」

「あれ?そうだったの?」
男が呆然と声を上げれば、少女はコクコクとうなずいた。
「……じゃぁ、オイラ逃げたほうが良かったり……?」
「……今は、そんなにお腹すいてない。あれ食べたから」
「じゃぁオイラ食べようとしたのは?」
「……おやつ?」

「疑問形で返されてもオイラ困るよ!?」

「……変なヒト」
会話をするうちに、少女はスルスルと身体を湖に戻して首だけを出して男を見つめる。
男はそんな彼女を見つめて、少し困った顔をした。
「オイラどうしたらいいのかな?」
「……帰らないの……?なら、食うよ?」

「いや、迅速に帰らせていただきます。迅速に」

少女の無垢な恐ろしい発言に男は後退って声をあげ、脱兎のごとく逃げるように走っていく。
その姿が森に呑まれたのを見てから、少女は水の中へとまたもぐり。

そしてその翌日。

また魔物に追い掛け回されてやってきたその男を魔物から助けるように邂逅して。
そして、またその翌日もそれを行った。

毎日毎日。

男が来るのが当たり前になり、少女は知らぬ間に男を食物とは見ないようになってしまっていた。










そうして今現在。
男は少女の額を撫でている。






「君のような大きい人魚は見たことがないよ」
「私、だけ?」
「そう、君だけ。
 でも君を街の魔術師どもに報告するのはなんかもったいないから、言うのはやめるよ」
「……なんで……もったいない?」

「だって、そうしたらオイラと君だけでのこういうおしゃべりができなくなっちゃうかも知れないからさ。
 魔術師どもは頭でっかちだから、きっとオイラを魔物が化けてるとかって殺すだろうし、君のところにも来て君に危害を加えるかもしれないからね」

「人間って……危険?」

「一部はね。でも危険と言っても度合いはそれぞれだけど。
 オイラは除外してよ?君とおしゃべりするの楽しいんだから。君の食事風景はまだ慣れないけど!」

悪戯っぽい男の言葉に、少女は首を傾げる。
どういうことかと考え出す少女の様子に男は困ったように笑って、それを見た少女はなんとなくその乾いている服や肌を見て。
水の上に尾の先を出して、男をそれで軽く突く。
「わぷっ。ちょ、ちょっと!オイラ、ビシャビシャになるって!」
「濡れるの、気持ちよくない?」
「人間は気持ちよくないよ!」

「……覚えた。ごめん」

「いや、そんなシュンて謝られると……!」
尾を水に戻して、何処か落ち込んだ様子の少女を男がなだめるように頬や額をこするように撫でると、少女は瞳を瞬かせてうっそりと細める。

「ねぇ」

「ん~?機嫌直った?」
「……頭や額……気持ちい……」
「撫でてるだけだよ?」
「なでる?」
「そうだよ。オイラは君を撫でてるんだ」

撫でる。
その言葉を覚えるように少女は口ずさむと、片手をゆっくりと動かして濡れそぼってしまった男を同じように撫でてみる。
が、力加減を間違えたか、男は思い切り少女の額に頭をぶつけていた。

「っ~~~~!!」
「だいじょぶ?」
「……うん、撫でるのはいいけど……もうちょっと、優しくね?」
「……難しい」
「体格の違いだよ。オイラは君に比べるとかなり小さいからね」

ポンポンと額を叩かれて、少女は男を見つめて。
離れて見える顔ををじっと見つめていた。

「ねぇ、オイラはケルミーっていうんだ。オイラの名前。
 もう友達だし、名前で呼び合わないかい?君ももう、オイラを食べ物とは見てないんでしょ?」
「名前……?」
「あるだろ?」

「……ちょっと待つ」

「え?うん、分かった」
不意に、唐突に始まった自己紹介。
少女は名前を聞かれて戸惑い、自分の寝床にある転がっているものや魚たちに聞いてみようと水にもぐる。
男……ケルミーは少女の様子に首を傾げながらも、その場に座って少女の帰りを待っていた。


それから暫くして、少女はケルミーからすれば大きなプレートのようなものを摘んで帰ってきた。
それをケルミーに差し出し、彼はそれを受け取ってきょとんと少女を見上げる。

「字、読めない」

「あぁ、読めってこと。
 えぇっと……グレイスって書かれてるみたいだね。オイラの地方の読み方で間違ってなければ」
「じゃぁ、それ」
「え?コレが君の名前?本当に?」

「魚に聞いたら、コレの周りでみんな泳ぎだした。だから、たぶんコレ」

「あぁ、そうなんだ……え?じゃぁ君、今まで自分の名前知らなかったの!?」
「ん」

見た目の割りに子供っぽい動きでうなずく少女……グレイスにケルミーは苦笑して。
また傍に戻ってきた顔、その目元に手を当てて擦るように撫でてやる。

「じゃぁ、忘れないようにずーっとオイラが呼んであげるよ。
 だからオイラの名前もちゃんと覚えて呼んでくれよ?グレイス」
「……ん……ケルミー」

「よしよし!……そうだグレイス!オイラ前から聞きたいことがあったんだ。
 ねぇ、水の中にはまだ君のような人魚とか魔物っている?」

ケルミーのまたも唐突な問いかけに、グレイスはきょとんとしてから首を振る。
なんで?と首を傾げる彼女を見上げて、彼は嬉しそうに顔を輝かせた。

「今度オイラ、君と一緒にここで泳いでいいかな?君の泳ぐ姿を見たいんだ!」

「……良い、よ?」

「ありがとうグレイス!」

嬉しそうなケルミーの顔を見て、グレイスも瞳を瞬かせてから僅かに頬を赤らめる。
その翌日から、暑い時期には湖で遊泳を楽しむ彼らの姿が見えるのだが。
それを見るものは誰一人いない。

なぜなら、そこは魔物がはびこる危険な森の奥深くなのだから。

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プロフィール

スノイリス

Author:スノイリス
性別:♀
ファンタジー王道の巨人や小人が大好きな故…
人間と小人、巨人と人間といったCPを書きなぐります。
ほぼ自己満足なものが多いと思われますが、よろしくお願いします。

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